2011年3月8日火曜日

治療費数百万円の死亡例

広がる未承認の幹細胞治療 「容認せず」学会が勧告

日本再生医療学会(理事長=岡野光夫・東京女子医大教授)は二日、がん糖尿病、脊髄(せきずい)損傷などの治療として国の承認を受けずに幹細胞治療をしている医療機関が増えているとし、未承認の幹細胞治療に関与しないよう会員に求める勧告を出した。会員の関与が分かった場合は、除名処分なども検討するという。

幹細胞は、多種類の細胞になる能力を持つ細胞。血液をつくり出す「造血幹細胞」、骨や筋肉の基となる「間葉系幹細胞」などが体内にあり、それを取り出して移植すれば傷ついた臓器や組織が再生できると期待されている。

万能細胞である人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)に比べ、できる細胞の種類や増殖力に限界があるが、患者の骨髄や脂肪から直接採取でき、拒絶反応が少ないなどの利点がある。

ただ、骨髄移植(造血幹細胞移植)以外の幹細胞治療はまだ研究段階。効果や安全性を確かめるため、国の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に沿った臨床研究などが行われている。

同学会によると、国内の一部の民間クリニックなどが正規の手続きを経ずに、患者の脂肪や骨髄から取り出した幹細胞を難病患者らに注射するなどしており、治療費は数百万円に及ぶケースもあった。

このような不適切な幹細胞治療を受けるため、海外から日本を訪れる「医療ツーリズム」も行われており、医療事故も起きているという。

勧告文では、日本は幹細胞治療の規制が他国より緩く「タックスヘイブン」(租税回避地)のように利用される恐れがあると指摘。安全性などの課題が残る未承認の幹細胞治療は、再生医療全体の信用を失墜させかねないとし、断固容認しないよう求めた。

記者会見した岡野理事長は「日本では(医師の裁量権を認める)医師法により、手続きなしでの幹細胞治療も認められているが、何をやってもいいというわけではない。行政側と相談しながら適正化を図っていきたい」と話した。

未承認の幹細胞治療をめぐっては、英科学誌ネイチャーが昨年十一月、日本にある韓国企業の提携医療機関で幹細胞を注入する治療を受けた韓国人患者一人が死亡した事例などを紹介する記事を掲載。これを受け、同学会が生命倫理委員会内で対応を議論していた。

2011年3月7日 東京新聞